アルギン酸

alginic acid

アルギン酸とは、コンブやワカメ、ヒジキ、モズクなどに含まれる多糖類の一種で、天然の食物繊維として知られています。アルギン酸は、血圧の上昇を抑制する効果やコレステロール値を下げる効果、ダイエットに対する効果、動脈硬化を予防する効果など様々な効果を持ちます。

アルギン酸とは

●基本情報
アルギン酸とは、コンブワカメヒジキモズクなどに含まれる多糖類の一種で、海藻のぬめり成分です。アルギン酸は乾燥藻体の10~50%を占めているため、海藻の主成分といえ、天然の食物繊維として知られています。
アルギン酸は、海中に含まれる様々なミネラルと塩を形成し、ゆるやかなゼリー状態となり細胞間隙を満たしています。
アルギン酸は、基本的には海藻(褐藻類)から抽出されています。海藻類は世界中で3000種類以上あるといわれており、その中でアルギン酸の原料としてはコンブやジャイアントケルプ[※1]のような大型の種類が利用されます。抽出されたアルギン酸は、食品添加物や食物繊維、サプリメント、医薬品、工業製品の原料として利用されています。
アルギン酸は「お腹の調子を整える食品」「コレステロールが高めの方に適する食品」として厚生労働省許可の特定保健用食品(トクホ)[※2]に指定されています。
また、アルギン酸の安全性はFAO[※3].WHO[※4]にも評価されており、もっとも安全な物質のひとつに数えられています。

●アルギン酸の歴史
アルギン酸は1883年スコットランドの化学者であるE.C.C.Stanfordにより初めて単離され、海藻(Algae)から得られる酸性物質という意味からAlginic acidと名付けられました。日本では当初、海藻酸やコンブ酸などと和訳されていましたが、現在ではアルギン酸と呼ばれています。
アルギン酸は発見されてから各国での実用化が進められ、昭和15年には日本国内でも生産されるようになり、現在では増粘剤やゲル化剤として幅広く利用されています。

●アルギン酸の性質
アルギン酸はそのままでは水に溶けない物質です。アルギン酸はナトリウムやカリウムなどの一価イオン[※5]と塩をつくる性質を持ち、水に溶けるようになります。水溶性のアルギン酸としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムなどがあります。また、多価イオン[※6]とも塩をつくることができる特徴を持っていますが、多価イオンでつくられた塩である場合、自由な分子運動を妨げられるため、水に溶けないものとなります。不溶性のアルギン酸には、アルギン酸カルシウムがあります。
また、アルギン酸は熱に弱いため、食品や化粧品などに添加する際は熱を加えず添加されています。

[※1:ジャイアントケルプとは、オオウキモと呼ばれる海藻の一種です。]
[※2:特定保健用食品(トクホ)とは、特定の保健の目的が期待できることを表示した食品のことです。身体の生理学的機能などに影響を与える保健機能成分(関与成分)を含んでいます。その保健効果が当該食品を用いたヒト試験で科学的に検討され、適切な摂取量も設定されています。また、その有効性・安全性は個別商品ごとに国によって審査されています。]
[※3:FAOとは、Food and Agriculture Organization of the United Nationsの略称で、国連食糧農業機関と訳されます。1905年国際連盟のもとに,政府間協力を通じて農民の生活状態を改善する目的で,ローマに設立された万国農事協会International Institute of Agriculture(略称IIA)が前身です。]
[※4:WHOとは、World Health Organizationの略称で、世界保健機構と訳されます。「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的に掲げている国際連合の専門機関のひとつです。]
[※5:一価イオンとは、イオンのイオン価が1であることを指します。]
[※6:多価イオンとは、イオン価数が2以上のものを指します。]

アルギン酸の効果

●高血圧を予防する効果
アルギン酸はコンブやワカメなどの海藻に含まれていますが、海藻のぬめりは水溶性のアルギン酸カリウムによるものです。
水溶性のアルギン酸カリウムは胃の中に入ると、アルギン酸とカリウムに分解されます、切り離されたカリウムは体内に吸収されると利用され、アルギン酸はナトリウムと結合しアルギン酸ナトリウムとなり体外に排出されます。
高血圧の原因のひとつとして、体内のナトリウム量の増加があるためナトリウムを排出する働きのあるアルギン酸は血圧を下げる効果があります。【1】

●コレステロール値を下げる効果
水溶性のアルギン酸カリウムは、そのぬめりにより余分なコレステロールを包みこんで体外に排出する作用を持ちます。また、不溶性のアルギン酸カルシウムは胆汁酸[※7]を吸収して排出する作用を持ちます。胆汁酸はコレステロールを原料としてつくられるため、胆汁酸を排出する作用を持つアルギン酸カリウムはコレステロール値を下げる効果があるといえます。【2】【3】

●ダイエット効果
アルギン酸を含んだ食品やドリンクを摂取することで、長時間にわたり満腹感を感じることができます。また、体内にほとんど吸収されることがないため、摂取カロリーを下げる効果もあります。
そのため、アルギン酸はダイエットに効果的な成分です。

●動脈硬化を予防する効果
動脈硬化とは、動脈にコレステロールや脂質が溜まって弾力性や柔軟性がなくなった状態のことです。動脈硬化が促進すると、血液がうまく流れなくなることで心筋梗塞や脳梗塞などの死に至るような病気につながる危険性もあります。
アルギン酸はコレステロールを排出する作用を持つため、動脈硬化を予防する効果があります。

●腸内環境を整える効果
アルギン酸は食物繊維の一種のため、便秘を改善し腸内環境を整える効果があります。
人間の腸内にはおよそ100種類、100兆個以上の腸内細菌が棲みついており、善玉菌と悪玉菌が常に勢力範囲を争っています。善玉菌が優勢を保っている時は腸の調子が良く、劣勢になった時は便秘などの症状として現れます。悪玉菌は腸内で毒素を発生させることにより、肌荒れや体調不良などが起こります。
水溶性食物繊維は、水に溶けゲル化し、人間の体に好ましくない物質の吸収を妨げ、便として排泄させる働きがあります。
不溶性食物繊維は、水には溶けませんが、水分を含んで膨張し、それによって腸を刺激することでぜん動運動[※8]を盛んにするため、食べ物の残りカスをすみやかに体外に排出する働きがあります。
アルギン酸は水溶性・不溶性ともに、腸内に溜まった不要な老廃物を体外へ排出する働きを持つため、便秘を改善し、腸内の環境を整える効果があります。

●胆石を予防する効果
胆石とは、肝臓の右下にある胆のうという袋に石のようなものができる病気で、背中に痛みが現れます。
この石のようなものは、そのほとんどが胆のう中のコレステロールが結晶化したものです。
コレステロールは水に溶けないため、胆汁の中ではリン脂質の膜やミセルという水にも油にもなじむ膜のようなもので覆われて存在しています。胆汁中のコレステロールが増えすぎてしまうことにより、ミセルで覆うことができなくなり、増えすぎたコレステロールが結晶化してしまうのです。
アルギン酸にはコレステロール値を下げる働きがあるため、胆石を予防する効果を持ちます。

[※7:胆汁酸とは、胆汁に含まれている物質です。消化管内で食物の脂肪や脂溶性ビタミンをより吸収しやすくする働きをします。]
[※8:ぜん動運動とは、腸に入ってきた食べ物を排泄するために、内容物を移動させる腸の運動です。]

アルギン酸は食事やサプリメントで摂取できます

アルギン酸を含む食品

○コンブ
○モズク
○ワカメ
○アラメなど海藻類

こんな方におすすめ

○血圧が高い方
○コレステロール値が高い方
○ダイエットしたい方
○動脈硬化を予防したい方
○便秘を解消したい方
○胆石を予防したい方

アルギン酸の研究情報

【1】自然誘発高血圧発症ラットに10% アルギン酸カリウムを飲用させたところ、血中のHDLコレステロールが上昇し、血圧上昇が緩和されたことから、アルギン酸は高血圧予防効果が期待されています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003167565

【2】ワカメから抽出したアルギン酸塩をラットへ5週間飲用させた結果、ラット血漿中コレステロールが減少したことが分かりました。アルギン酸には、高脂血症予防効果が期待されています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003168312

【3】高脂血症ラットを対象に、低分子アルギン酸ナトリウムを1.0% 含む餌を摂取させたところ、高コレステロール血症が改善されたことから、アルギン酸は高脂血症予防効果を持つと考えられています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003168419

参考文献

・宮島千尋 アルギン酸類の概要と応用 繊維と工業

・新崎盛敏・新崎輝子 海藻のはなし 東海大学出版会

・中嶋 洋子 著、阿部 芳子、蒲原 聖可監修 完全図解版 食べ物栄養事典 主婦の友社

・辻 啓介、中川 靖枝、市川 富夫 (1993) “アルギン酸カリウムが高血圧自然発症ラットの血圧, ミネラル出納, 血清コレステロールレベルに及ぼす影響” 日本家政学会誌 44(1), 3-9, 1993-01-15

・山中 なつみ、小川 宣子 (1997) “ワカメ成実葉の摂取がラットの消化器官の形態と血漿コレステロール濃度に与える影響” 日本家政学会誌 48(11), 1021-1028, 1997-11-15

・西澤 信、岩田 一幸、山岸 喬、辻 啓介 (1997) “高コレステロール飼料を摂取させたラットの血清および肝コレステロールに及ぼす低分子化アルギン酸ナトリウムの影響”

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