ディル

dill
イノンド 時蘿
Anethum graveolens

ディルは、さわやかな芳香をもつハーブの一種です。キッチンハーブとして利用され、特に魚料理に用いられる他、ピクルスにも使われています。ディルには、胃を健康に保つ効果があるカルボンやリモネン、ジラピオールを含んでおり、食欲不振や嘔吐、下痢、腹痛、またしゃっくりをとめるのにも効果的として民間で使用されています。

ディルとは?

●基本情報
ディルとは、セリ科イノンド属の1・2年草で、特徴のある香りと軟らかい茎をもっており、草丈は80~120㎝にもなり、茎は中空で多くの葉をつけます。
茎葉はさわやかな香りをもち、種子は刺激的な辛味をもっています。花は甘い風味があり、料理のアクセントとして使うと効果的です。
茎葉は乾燥させることが困難なので、生のまま使用します。コップに入れて風の当たらない涼しい場所に置くと、3日間くらいは保存がききます。種子は乾燥させて、粉か粉末で使います。乾燥すると香りが、味が強くなります。
ディルはキッチンハーブとして使われ、特に魚料理に用いられるほか、ピクルスにも使われています。ディルヨーロピアンと呼ばれるもののほかに、インドに育つディルインディアンという種類もありますが、一般的にはディルヨーロピアンが広く使われています。
外観は同じセリ科のフェンネルとよく似ており、針のように細い葉をもち、黄色い小さな花を傘のように咲かせます。フェンネルとの違いは、茎が中空になっていることです。
植物体全体に精油を含み、成分・量ともに生育によって変化することが知られており、熟した種子には精油が3~4%含まれます。
アメリカでは、ディルは種子の収穫目的ではなく、ほとんどが精油の採取のために栽培されます。また、種子から溶剤抽出によって得られるオレオレジンも、食品分野に利用されています。

●ディルの歴史
ディルは香辛料としても知られ、古代のメソポタミアやエジプトで栽培された最も古い香草、薬草のひとつです。
ディルは、紀元1世紀のローマの博物学者ディオスコリデスの文献に登場しています。ディルという名前は古ノルド語で駆風剤[※1]を意味する「dilla」に由来しています。カンタベリー大司教だったアルフリックが、10世紀にこの名前を使い、11世紀にはドイツでディルまたはtillの名が使われていました。ディルはスイスの新石器時代の湖畔の住居跡から見つかっているので、古代から利用されていたこと、少なくとも紀元前400年から栽培されていたことがわかっています。
ディルは古くから頭痛や血管障害の治療などに利用されてきました。ローマ時代にも栽培されていましたが、一般に普及したのは14世紀になってからです。日本には江戸時代に導入され、時蘿(じら)という名前で生薬として利用されてきました。

●ディルの生産地
ディルの原産国は地中海沿岸部とロシア南部とされています。
インド、アメリカ、スペイン、イタリアなどが主な生産国で、日本での生産量は微量ですが、国内のハーブ園などで栽培されています。

●食材としての利用
ディルは食用ハーブのなかで、もっとも用途が広く、キュウリのピクルスでおなじみです。生葉、種子、「ディルウィード」として知られる乾燥葉のどれもが使われています。花が咲く前に収穫したディルの葉は、キュウリ、ジャガイモ人参、フレッシュサーモンまたはスモークサーモンの味を引き立てます。乾燥させたディルウィード(葉)も同様です。生の葉は細かく刻んでそのままサラダにしたり、スープや伊勢エビのような海産物にふりかけて利用されます。ピリッとしたさわやかな香りの種子は、キャベツ料理、煮込み、スープ、ビネガー、パンによく合います。

ハーブティーの入れ方:小さじ1杯程度のハーブに対し、カップ1杯の熱湯を注ぎ、そのままふたをして10分程度おき、こしてから飲みます。

●ディルに含まれる成分と性質
ディルには、カルボンやリモネン、ピネン、フェランドレンなどが含まれています。
ディル種子油は、健胃効果や駆風効果、去痰効果[※2]があるとされ、薬用に用いられています。その他にも鎮痙効果や催乳効果、生理痛にも効果があると期待されています。
ディルは穏やかな鎮静剤となるので、赤ちゃんの夜泣きや不眠症によいといわれ、ディルのハーブティーにはイライラを鎮める効果があります。

[※1:駆風剤とは、腸管内にたまったガスを排出させる作用のある薬剤のことです。]
[※2:去痰とは、気管や気管支にたまった痰を除去することをいいます。]

ディルの効果

●胃腸の機能を高める効果
ディルには精油成分であるカルボンが含まれており、消化液の分泌を促す効果があります。【2】
ディルは、お茶にして飲むと胃の不快感、腸内ガスなどを軽減するとされており、消化不良やお腹の張りなど消化器系の不調によく用いられます。
漢方名の「蒔蘿」は「駆風剤」を意味するほどディル油には駆風効果があるといわれ、種子を水蒸気蒸留して得た蒔蘿水を小児の食べ過ぎに用いたりします。
このことからディルには健胃効果や駆風効果があり、消化を助け、胃腸の調子を整える効果があるとされます。

●口臭を予防する効果
ディルには、胃や腸などの消化器系の不調に用いられるほか、口臭を消してくれる効果があります。
食後にハーブティーにして飲むか、そのまま種子を噛めば、消化を助ける上に口臭を消す効果が期待できます。
またしゃっくりがでるときにもディルが飲まれます。【1】

●女性特有の悩みを改善する効果
ディルには、母乳の出をよくする効果もあるので、授乳中の方に適しています。
また、鎮痙効果もあることから生理痛にも効果があります。月経の遅れや無月経を正常なサイクルに戻すためにも用いられます。【3】

●リラックス効果
ディルの果実には精油成分のリモネンが含まれており、脳内でリラックス時に出るα波が放出されることから、ディルにはリラックス効果が期待されています。
ディルは、穏やかな鎮静剤となるので、赤ちゃんの夜泣きや不眠症によいといわれ、ディルシードにお湯を注いだお茶は、イライラを鎮める効果があります。

ディルはこんな方におすすめ

○胃の健康を保ちたい方
○腸内環境を整えたい方
○ついつい食べ過ぎてしまう方
○口臭が気になる方
○女性特有の病気(更年期、生理不順など)が気になる方
○ストレスをやわらげたい方

ディルの研究情報

【1】ディル油のカンジダ・アルビカンスに対する抗菌効果を調べたところ、ディル油がカンジダ・アルビカンスの細胞膜にダメージを与えることがわかったため、この菌に対するディルの抗菌効果が期待されます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23657528

【2】ディルは民間治療薬として胃腸の病気に使われています。マウスを使った実験においてディルの胃腸に対する効果について実証されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12493079

【3】ラットを使い、ディルの抽出物の女性生殖に関わる効果を調べたところ、月経サイクルを調整する効果があることが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16835877

参考文献

・五明紀春 食材健康大事典 時事通信社

・アン マッキンタイア著 女性のためのハーブ自然療法 産調出版

・ワンダ・セラー 著 アロマテラピーのための84の精油 フレグランスジャーナル社

・武政 三男 著 80のスパイス辞典 フレグランスジャーナル社

・ハーブスパイス館 小学館

・アースプランツリサーチオーガニゼーション監修 HERB BIBLE 双葉社

・地域食材大百科 第3巻 社団法人農山漁村文化協会

・小林彰夫 斎藤洋 監訳 天然食品・薬品・香粧品の事典 株式会社朝倉書店

・Chen Y, Zeng H, Tian J, Ban X, Ma B, Wang Y. (2013) “Effects of Anethum graveolens L. seed extracts on experimental gastric irritation models in mice.” J Med Microbiol. 2013 Aug;62(Pt 8):1175-83.

・Hosseinzadeh H, Karimi GR, Ameri M. (2002) “Inhibition of ketamine-induced hyperlocomotion in mice by the essential oil of Alpinia zerumbet: possible involvement of an antioxidant effect.” BMC Pharmacol. 2002 Dec 19;2:21. Epub 2002 Dec 19.

・Monsefi M, Ghasemi M, Bahaoddini A. (2006) “The effects of Anethum graveolens L. on female reproductive system.” Phytother Res. 2006 Oct;20(10):865-8.

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