レモン

lemon
檸檬  citrus  limon  BURM f.

レモンは柑橘類の中でも多くのビタミンCを含む、ビタミンCの代名詞的な存在の果物です。
クエン酸も豊富に含まれており、ビタミンCの効果と合わせて美肌効果や疲労回復、風邪予防などに効果を発揮します。

レモンとは?

●基本情報
レモンとはインド北部ヒマラヤ地方が原産のミカン科ミカン属の果物です。
1本の果樹から約100~150個の果実が収穫されます。樹上で果実を成熟させると、大きくなりすぎて貯蔵性も低いため、果実が青いうちに収穫し低温で1~2ヵ月熟成させてから出荷されます。
ビタミンCの含有量が柑橘類の中で最も多く、レモンはビタミンCの代名詞となっています。別名でクエンと呼ばれ、クエン酸の名前の由来になっています。
レモンは良い香りを持つため料理や紅茶に添えたり、パイやケーキの香料やレモネードとしても利用されています。

●レモンの歴史
レモンはヒマラヤ地方で誕生し、10世紀頃に中国に伝えられました。その後アラビア半島に伝わり、12世紀頃にアラビア人からスペインに伝えられたといわれています。そして十字軍の移動とともにヨーロッパに広がり、さらに大航海時代にはアメリカやブラジル、アルゼンチンなどへ渡来しました。

●レモンの生産地
レモンは寒さに弱く、黒点病[※1]や潰瘍病[※2]などにかかりやすいため、冬は温暖で夏は雨の少ない地方がレモンの栽培に適しています。海外ではシチリア島[※3]や南カリフォルニアがレモンの名産地として知られています。
日本では近年国産レモンの需要が高まり、広島県尾道市、呉市、大崎上島町、愛媛県の松山市や上島町など瀬戸内海島嶼部(とうしょ部)でレモンの栽培が盛んになりつつあります。

●レモンの品種
レモンは品種によって生産地が異なり、味や香りも少しずつ違います。

・リスボン
リスボン[※4]という名の通りポルトガルが原産地の酸味が強いレモンです。果重は100~140g程で、果汁が多く、さわやかな香りを放ちます。現在は主にアメリカのカリフォルニア内陸地帯で生産されています。日本には明治末期に伝えられました。寒さや風に強く、国内産は9月~12月頃に出荷されます。輸入品は1年中手に入ります。

・ユーレカ(ユリーカ)
アメリカのカルフォルニア沿岸地域で多く栽培され、外見・味ともにリスボンとよく似ています。ジューシーで香りも良く酸味がしっかりしているレモンです。果重は110~130g程で種は少なめです。国内産は9月~12月頃に出荷されます。

・ジェノバ
主にチリで栽培されている酸味が強いレモンです。チリでは6月~10月頃に収穫されています。果重は100~140g程で、種は少なめです。豊富な果汁と良い香りが特徴です。

・メイヤー
酸味が少なくやや甘みが感じられるレモンです。他のレモンより丸みがあり果皮の色がオレンジがかっており、オレンジとの自然交雑で誕生したといわれています。主にニュージーランドから輸入されていますが、最近では日本国内でも生産されるようになりました。

●レモンの見分け方
レモンは形が整い軸(ヘタ)が緑色で果皮にハリとツヤがあり、色鮮やかなもの、香りの良いものが品質の良いレモンです。軽いレモンは水分が少ないというサインなので、重みがあるレモンを選ぶことをおすすめします。皮にしわがあったり、変色しているものは避けてください。

●レモンに含まれる成分と性質
レモンにはビタミンCが豊富に含まれています。
ビタミンCには強い抗酸化作用[※5]があり、紫外線やストレスなどにより発生する活性酸素[※6]を除去し、体が酸化することを防ぎます。レモンに含まれるビタミンCが体内で強い抗酸化作用を発揮して体を酸化から守ることで、病気や老化、肌トラブルが予防されます。

ビタミンCは丈夫な血管や筋肉、骨、肌などをつくるコラーゲンの合成に必要不可欠です。
コラーゲンとは、体の組織や細胞をしっかり結びつける接着剤のような働きをするたんぱく質のことです。
ビタミンCには、コラーゲンの合成を助け、血管や筋肉、骨などを丈夫にすることで、骨がもろくなる骨粗しょう症[※7]や血管から出血しやすくなる壊血病[※8]などを予防する働きがあります。

また、レモンには疲労回復や食欲増進に働きかけるクエン酸も含まれています。クエン酸は人間のエネルギーを生み出すためのクエン酸カイロ[※9]の働きをサポートしてくれる重要な成分です。
レモンには血管を丈夫にして動脈硬化を予防するフラボノイドのルチン、利尿作用で高血圧を防ぐカリウムも含まれています。皮には食物繊維も豊富に含まれます。

<豆知識>柑橘類で壊血病対策
大航海時代の帆船による長期航海では、壊血病によって多くの船乗りが倒れました。当時の医学知識では壊血病は船乗りの宿命としてあきらめるしかないとされていましたが、1747年にスコットランドの医師ジェームズ・リンドによって壊血病の原因はビタミンCの欠乏によるものだと発見されました。キャプテン・クックはこの発見を活かし、二度目の世界一周航海に出航する時、レモンやライムなどの柑橘類や塩漬け野菜などを十分に積み込ませました。その結果、壊血病による死者はたった1人しかいなかったそうです。
このため英国海軍では1795年以降、乗組員に柑橘類のジュースを強制的に飲ませるようにしたところ、壊血病の悩みはほぼ解消されたといわれています。

[※1:黒点病とは、葉に淡褐色または黒色のしみのような斑点ができる植物の病気です。斑点が大きく広がると斑点の周りから黄色く変色してやがて落葉してしまいます。]
[※2:潰瘍病とは、果実、葉、枝などに発生する、細菌によって起こる植物の病気のことです。]
[※3:シチリア島とは、地中海のほぼ中央部に位置するイタリア半島南西の島です。]
[※4:リスボンとは、ポルトガルの首都であり、ポルトガル最大の都市です。]
[※5:抗酸化作用とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用です。]
[※6:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い抗酸化力を持った酸素のことです。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化の原因になるとされます。]
[※7:骨粗しょう症とは、骨からカルシウムが極度に減少することで、骨の内部がスカスカになった症状であり、非常に骨折しやすくなることで知られています。高齢者に多い症状で、日本では約1000万人の患者がいるといわれており、高齢者が寝たきりになる原因のひとつです。]
[※8:壊血病とは、ビタミンCの不足によって体内の各器官に出血性の障害が生じる疾患のことです。]
[※9:クエン酸回路とは、体内に入った食物を燃焼させエネルギーをつくり出す、一連の流れのことです。]

レモンの効果

レモンには、抗酸化力の強いビタミンCをはじめ、クエン酸、ルチン、カリウムなど様々な栄養素が含まれており、美容や健康に対する以下のような効果が期待できます。

●美肌効果
レモンに豊富に含まれるビタミンCには、シミやそばかすを予防し、ハリのある若々しい肌を保つ効果があります。
日光に当たり続けると、紫外線の刺激を受けてチロシンと呼ばれるアミノ酸から皮膚の色素細胞であるメラニン色素が生成されます。このメラニン色素が皮膚に沈着することで、シミ・そばかすとなります。
ビタミンCはチロシンをメラニンに変換するチロシナーゼという酵素の働きを抑え、メラニン色素の沈着を防ぐことで、シミ・そばかすを予防します。
ビタミンCにはコラーゲンの合成を促進する働きがあります。
コラーゲンには細胞と細胞をつなぐ結合組織を丈夫にする働きがあり、そのコラーゲンの生成に欠かせないのがビタミンCです。ビタミンCによってコラーゲンの合成が活性化されるため、細胞と細胞がしっかりとくっついて肌のハリが保たれます。
また、肌のたるみは紫外線などの影響でコラーゲンが分解され起こる現象ですが、ビタミンCにはその分解を減らす働きもあります。

●免疫力を高める効果
レモンにはビタミンCが豊富に含まれています。
ビタミンCは、血液中の白血球、特に好中球[※10]に多量に含まれており、体外から侵入してきた細菌やウイルスなどを撃退する役割を担っています。ビタミンCは、白血球の働きを高め、ビタミンC自体も細菌やウイルスに対抗する力を持っています。ビタミンCを豊富に含むレモンを積極的に摂取することで免疫力が高まり、風邪などの病気予防に効果的です。【1】

●ストレスをやわらげる効果
レモンに豊富に含まれるビタミンCには、ドーパミンやアドレナリンなどの神経伝達物質[※11]やストレスをやわらげる働きをする副腎皮質ホルモン[※12]の合成をサポートする働きがあります。そのため、レモンを摂取することで、ストレスに対する抵抗力を高めたり、イライラを鎮める効果があります。

●疲労回復効果
人が疲れを感じるのは、疲労物質である乳酸が体内に蓄積しているためです。乳酸は通常なら代謝[※13]によって自然と消費されますが、代謝機能が衰え乳酸が体内に増えると体の様々な筋肉と結合して溜まってしまい、疲労を感じるようになります。レモンに含まれるクエン酸は乳酸を分解しエネルギーに変える経路をサポートするため、運動後や頭を使った後の疲労回復に効果的です。
クエン酸にはクエン酸回路の働きをサポートし、グリコーゲン[※14]の分解を抑え、失われたグリコーゲンの回復を促す働きもあります。

●高血圧を予防する効果
レモンに含まれるカリウムやルチンには血圧を下げる働きがあります。カリウムは細胞内のナトリウム量を調節し、余分なナトリウムと水分を細胞の外に出します。ナトリウムが腎臓で再吸収されるのを防ぎ、尿への排出を促すため、血圧を下げる効果があります。
ルチンはビタミンPとも呼ばれ、ビタミンCとともに毛細血管を丈夫にする働きがあります。また、毛細血管の収縮作用や血圧降下作用もあり、高血圧や脳卒中の予防に効果的です。

[※10:好中球とは、体内に存在する白血球の40%~60%占める白血球の一種です。急性的な炎症に対して中心となって血液中の細菌やウイルスと闘います。]
[※11:神経伝達物質とは、神経細胞の興奮や抑制を他の神経細胞に伝達する物質のことです。]
[※12:副腎皮質ホルモンとは、副腎皮質から分泌されるホルモンのことです。代表的なホルモンに、コルチゾールやアルドステロンがあります。]
[※13:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※14:グリコーゲンとは、糖がたくさんつながり、多糖類となった状態で肝臓や筋肉に貯蔵されている物質のことです。グリコーゲンはエネルギーが足りなくなった際にブドウ糖に変化するため、エネルギー源として大切な役割を持っています。]

レモンは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

〇美肌を目指したい方
〇風邪をひきやすい方
〇丈夫な体をつくりたい方
〇ストレスをやわらげたい方
〇疲れやすい方
〇血圧が高い方

レモンの研究情報

【1】柑橘系のペクチン(MCP)には、免疫細胞T細胞、B細胞およびNK細胞を活性化することがわかりました。特にオリゴガラクツロン酸が関与していることから、レモンなどの柑橘類が免疫向上作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21816083

【2】リウマチマウスに、レモンなどの柑橘類由来のナリンギンを投与したところ、軟骨関節損傷、炎症細胞浸潤、パンヌス形成を抑制されたことから、レモンなどの柑橘類はリウマチ予防効果や抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21480758

【3】ヒト滑膜線維芽細胞に、レモンなどの柑橘類に含まれるフラボノイドであるノビレチンを投与したところ、抗炎症物質インターロイキンの産生および、関節リウマチ・変形関節症に関する遺伝子ADAMTS‐4、‐5が抑制されたことから、レモンなどの柑橘類がリウマチ予防効果や抗炎症作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18541144

参考文献

・吉川敏一 辻智子 医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド―完全版 講談社

・本多京子 食の医学館 株式会社小学館

・池上保子 おいしく食べて健康に効く目で見る食材便利ノート 株式会社永岡書店

・食材図典 小学館

・旬の食材  四季の果物 講談社

・菅原龍幸・井上四郎 原色食品図鑑 株式会社建帛社

・Ramachandran C, Wilk BJ, Hotchkiss A, Chau H, Eliaz I, Melnick SJ. (2011) “Activation of human T-helper/inducer cell, T-cytotoxic cell, B-cell, and natural killer (NK)-cells and induction of natural killer cell activity against K562 chronic myeloid leukemia cells with modified citrus pectin.” BMC Complement Altern Med. 2011 Aug 4;11:59.

・Kawaguchi K, Maruyama H, Hasunuma R, Kumazawa Y. (2011) “Suppression of inflammatory responses after onset of collagen-induced arthritis in mice by oral administration of the Citrus flavanone naringin.” Immunopharmacol Immunotoxicol. 2011 Dec;33(4):723-9. Epub 2011 Apr 11.

・Imada K, Lin N, Liu C, Lu A, Chen W, Yano M, Sato T, Ito A. (2008) “Nobiletin, a citrus polymethoxy flavonoid, suppresses gene expression and production of aggrecanases-1 and -2 in collagen-induced arthritic mice.” Biochem Biophys Res Commun.2008Aug 22;373(2): 181-5.

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