甘草(かんぞう)/リコリス

リコリス

甘草は砂糖の50倍~80倍の甘みがある植物です。主に根を乾燥させ、そのまま煮出して甘草湯にしたり、粉末を甘味料として使用します。古くから薬効があるとされてきましたが、現在も中国やドイツ、日本でも様々な働きが証明され幅広く利用されています。

甘草(かんぞう)とは

●基本情報
甘草は中国北部、中央アジア、シベリア、イラン、およびヨーロッパ各地を産地とするマメ科の多年草です。
主に根を乾燥させ、そのまま煮出して甘草湯にしたり、粉末を甘味料として使います。
甘草は砂糖の50倍~80倍の甘みがある植物です。
甘草の甘み成分には、グリチルリチン、ブドウ糖、ショ糖などが含まれ、日本では醤油の甘味料として使われます。
カロリーが低いので、欧米では自然な添加物といわれていて、お菓子やソフトドリンクに使われています。

●甘草の歴史
古くから東洋でも西洋でも薬用植物として、根およびストロンと呼ばれる茎の部分が用いられてきました。
西洋の医療史に甘草が登場するのは、「ヒポクラテス全集」がその初めだといわれています。
ヒポクラテスは紀元前5世紀頃に活躍した医者です。
ヒポクラテスに次いで甘草を取り上げているのはテオフラステスです。著書「植物誌」の中で、喘息や胸の病気に対する処方として記載されています。
さらに、ローマ帝国の時代に活躍し、西洋本草学史上最大の人物といわれるディオスコリデスの書にも、甘草は喉、肝臓、腎臓、皮膚病に効果があると記されています。このディオスコリデスの著書はその後16世紀頃まで、西洋本草学におけるバイブル的存在であったといわれています。
一方、中国では紀元前3世紀頃の「爾雅」に甘草の名が記されています。中国最古の本草書である「神農本草経」は、今で言う副作用を中心に薬を分類し、甘草は副作用の少ない薬に分類され、「五臓六腑の寒熱邪気を除き、筋骨を固くし、肌肉を成長させ、力を倍増させ、創傷や足の腫れる病気に良く、解毒作用があり、長期間にわたって服用すれば身体を軽快にし、寿命を延ばす」と書かれています。
また、有名な中国の医学書「傷寒論」に記されている処方の半分以上に甘草が含まれており、多くの漢方処方のベースに含まれています。
その後も中国では様々な医学書、本草書が記されていますが、そのいずれにおいても甘草はなくてはならない薬物として扱われています。甘草は、日本薬局方にも収載されており、激しい咳や喉の痛みの緩和に効果があるとされています。
また、甘草はリコリスとも呼ばれます。リコリスはハーブ先進国であるドイツのハーブの効能に関する公的評価委員会で承認されたハーブで、喉や鼻の消炎剤、また胃や十二指腸潰瘍の痛みの鎮静剤としての効果が認められています。

●甘草に含まれる成分と性質
甘草には、甘味のもととなるグリチルリチンの他にリクイチリンやリクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニンというフラボノイド系の物質があげられます。これらの成分には非常に強い抗酸化作用が認められています。
特にイソリクイリチゲニンには抗酸化作用に加え、抗炎症作用などの様々な働きが明らかになってきました。
イソリクイリチゲニンは医薬品として開発すべく研究されています。

甘草(かんぞう)の効果

甘草には、リクイチリンやリクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニンというフラボノイド系の物質が豊富に含まれているため、以下のような働きが期待できます。

●活性酸素を除去する効果
近年、ガンや脳卒中などの生活習慣病は大きな社会問題となっています。この生活習慣病の発病には、高い確率で活性酸素が関与しています。活性酸素は、紫外線や喫煙、ストレスなどが原因で体内に発生し、細胞や血管など体の様々なところにダメージを与えます。また、活性酸素は生活習慣病だけでなく、老化やその他の病気を引き起こす原因だといわれています。
甘草に含まれるフラボノイド系の成分には、抗酸化作用という活性酸素を除去する力があります。
甘草を摂取することにより、老化や生活習慣病を予防する働きがあるといわれています。【1】【6】

●肝機能を高める効果
肝臓には、もともと解毒作用があります。この働きは、薬物などの異物をすばやく排泄するために肝臓でグルコースから生成されたグルクロン酸という物質を異物に結合させ、水に溶けやすくすることにより尿中に排泄しやすくすることによるものです。
主成分のグリチルリチンが肝臓でグルクロン酸に代謝されるため、グルコースからグルクロン酸を作る手間が省けます。
このため、甘草は肝臓の解毒作用を強化するといわれています。【2】

●アレルギーを抑制する効果
甘草のグリチルリチンは、抗アレルギー作用のあるコルチゾンに似た成分です。
強い抗ヒスタミン・抗アレルギー作用があるので、炎症を抑え、かゆみなどをとり除きます。接触性皮膚炎、じんま疹、薬物疹、花粉症などの症状に有効です。

●ストレスをやわらげる効果
甘草にはストレスに対抗する副腎皮質ホルモンを長く体内に留める働きと全般的な抵抗力を高める働きがあります。
このため、甘草を摂取することはストレスからくる様々な症状に効果的だといわれています。【3】【4】

●免疫力を高める効果
甘草は、古くから腫瘍を抑制する漢方として利用されてきました。
甘草は免疫増強作用があることが知られています。甘草に含まれているグリチルリチンがマクロファージ[※1]のIL-12(インターロイキン-12)[※2]を増加させる作用は、甘草の抗腫瘍効果と関連すると考えられます。【4】

●ホルモンバランスを整える効果
甘草には強い女性ホルモン様活性を示すエストロゲン様物質が含まれています。このため、摂取することによりホルモンのバランスを整える効果があると考えられています。【5】

[※1:マクロファージとは、白血球の一種です。免疫機能を担う細胞のひとつで、生体内に侵入したウイルスや細菌、または死んだ細胞を捕食し、消化する働きを持ちます。]
[※2:IL-12(インターロイキン-12)とは、抗腫瘍効果に関与するほとんど全ての免疫系を活性化する物質のことです。]

甘草は食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○生活習慣病を予防したい方
○肝臓の健康を保ちたい方
○アレルギーでお悩みの方
○ストレスをやわらげたい方
○腫瘍を抑制したい方

甘草(かんぞう)の研究情報

【1】健常成人15名を対象に、甘草を1日あたり3.5g の量で2ヵ月間摂取させたところ、BMIの変化は認められませんでしたが、体脂肪量が減少し、血漿レニン活性ならびにアルドステロン活性が低下していました。甘草は脂肪細胞に作用し、脂肪代謝関連酵素を阻害することにより、体脂肪蓄積を予防する働きを持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14594116

【2】C型肝炎患者13名を対象に、甘草の有効成分グリチルリチン酸を週3-6回の量で4週間静脈注射したところ、ALT濃度が低下したことから、甘草は肝臓保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11513186

【3】消化不良患者120名を対象に、甘草を含む抽出物を24週間摂取させたところ、甘草摂取時期には胃腸症状スコアの改善が見られたことから、甘草は胃腸保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14755152

【4】ヒト胃壁組織に対して、甘草水抽出物を1mg/mL の量で投与したところ、ヘリコバクターピロリ菌が胃粘膜組織に対する接着が阻害されたことから、甘草は胃潰瘍保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19607905

【5】健常男性7名を対象に、グリチルリチン酸を0.5g 相当を含む甘草7g を7日間摂取させたところ、テストステロン濃度は低下し、プロゲステロン濃度が増加することから、甘草は男性ホルモンに影響を及ぼす可能性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10515764

【6】高脂肪食摂取ラットを対象に、甘草の主要成分グリチルリチン酸を100mg/kg の量で28日間摂取させたところ、血糖値の改善および皮下脂肪組織における脂質代謝酵素の増加に伴う、HDLコレステロールの増加ならびにLDLコレステロールの低下が見られたことから、甘草は糖尿病予防効果ならびに生活習慣病予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20670429

【7】インフルエンザ感染マウスを対象に、甘草の主要成分グリチルリチン酸を投与したところ、T細胞およびIFN-γが活性化されることにより、甘草はインフルエンザ予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9055991

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参考文献

・ヴィクトリア・ザック ハーブティーバイブル 東京堂出版

・杉山理 あなたの遺伝子を守る健康薬 甘草の知られざる力 遊タイム出版

・Armanini D, De Palo CB, Mattarello MJ, Spinella P, Zaccaria M, Ermolao A, Palermo M, Fiore C, Sartorato P, Francini-Pesenti F, Karbowiak I. 2003 “Effect of licorice on the reduction of body fat mass in healthy subjects.” J Endocrinol Invest. 2003 Jul;26(7):646-50.

・van Rossum TG, Vulto AG, Hop WC, Schalm SW. 2001 “Glycyrrhizin-induced reduction of ALT in European patients with chronic hepatitis C.” Am J Gastroenterol. 2001 Aug;96(8):2432-7.

・Madisch A, Holtmann G, Mayr G, Vinson B, Hotz J. 2004 “Treatment of functional dyspepsia with a herbal preparation. A double-blind, randomized, placebo-controlled, multicenter trial.” Digestion. 2004;69(1):45-52.

​​・Wittschier N, Faller G, Hensel A. 2009 “Aqueous extracts and polysaccharides from liquorice roots (Glycyrrhiza glabra L.) inhibit adhesion of Helicobacter pylori to human gastric mucosa.” J Ethnopharmacol. 2009 Sep 7;125(2):218-23.

​・Armanini D, Bonanni G, Palermo M. 1999 “Reduction of serum testosterone in men by licorice.” N Engl J Med. 1999 Oct 7;341(15):1158.

​​・Eu CH, Lim WY, Ton SH, bin Abdul Kadir K. 2010 “Glycyrrhizic acid improved lipoprotein lipase expression, insulin sensitivity, serum lipid and lipid deposition in high-fat diet-induced obese rats.” Lipids Health Dis. 2010 Jul 29;9:81.

​​・Utsunomiya T, Kobayashi M, Pollard RB, Suzuki F. 1997 “Glycyrrhizin, an active component of licorice roots, reduces morbidity and mortality of mice infected with lethal doses of influenza virus.” Antimicrob Agents Chemother. 1997 Mar;41(3):551-6.​

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