ヤマブシタケ

hericium erinaceum
山伏茸 ハリセンボン

ヤマブシタケとはβ-グルカンを豊富に含み、免疫力を高める効果が期待され注目を集めています。その他にも、食物繊維やミネラル、ビタミンを豊富に含んでいます。漢方では胃炎や消化不良、虚弱の緩和に利用されてきました。

ヤマブシダケとは?

●基本情報
ヤマブシタケとは、サンゴハリタケ科のきのこです。夏の終わりから秋にかけ、クヌギやミズナラなどの広葉樹に生えます。キノコのほぼ全体から細かい針状の突起を垂らした球形のキノコです。ヤマブシタケの名前は、修験道(しゅげんどう)[※1]の山伏(やまぶし)[※2]の着る服(袈裟)の飾りに似ていることに由来しています。食用きのことして食べられてきた歴史に加え、薬効のあるキノコとしても利用されてきました。ヤマブシダケに豊富に含まれるβ-グルカンが免疫力を高める働きを持つと期待され、またアルツハイマー型認知症の進行を遅らせる、ヘリナシンやエリナシンという物質も含まれ、注目を集めています。

●ヤマブシタケの歴史
ヤマブシタケは、その個性的な外見が特徴です。和名は山伏の着る服(袈裟)の飾りに似ていることから付けられましたが、この名が登場したのは、大正時代です。
袈裟にある「まるくふんわりとした飾り」がキノコのユニークな形に似ていることから、当時の薬草研究者、白井光太郎氏によって命名されました。
また、ヤマブシタケはその特徴的な外見からいくつも名前を持ち、「ハリセンボン」「ウサギタケ」などとも呼ばれています。中国では毛を長く垂らしたサルの頭に似ていることから 「ホウトウクウ(猴頭菇)」という名で呼ばれ、昔から食用に使用され漢方にも利用されてきました。漢方や食用としての歴史は古いですが、薬効が紹介されたのはまだ新しく、1978年に刊行された『中国薬用真菌』に「消化不良や胃潰瘍、神経衰弱、身体虚弱に効く薬用・食用キノコ」というように掲載されています。日本でもこの未知なる可能性を秘めたヤマブシタケについて研究開発が進められています。

●ヤマブシタケの生態と生産地
ヤマブシタケはクヌギやクルミ、シイなどの広葉樹に発生します。日本、中国、ヨーロッパ、北アフリカ、北アメリカをはじめ、広く北半球温帯以北に分布しています。
ヤマブシタケは、天然物が少なくなっているため、生の状態で入手することは難しく、乾燥品が主流になっています。中国では乾燥品を漢方薬として、日本では健康食品として利用しており、抗ガン作用、認知症の防止、脳の活性化などに有効な成分が期待されています。
近年、栽培技術の研究が進むにつれて、日本でも気温や湿度の管理を行うことで栽培できるようになり、原木栽培[※3]や菌床栽培[※4]が可能になりました。
食材としても人気がありますが、中国では、フカヒレやなまこ、熊の手とともに「中国山海4大珍味」のひとつに入るほど美味しいきのことして認知され、昔から宮廷料理や薬膳料理の材料として利用されてきました。

●ヤマブシタケの有効成分
ヤマブシタケは多糖類であるβ-グルカンを含み、免疫力を高める効果があります。これまでの臨床実験で数々の効果が報告されています。他のキノコが1、2種類しか多糖類を持たないのに対して、ヤマブシタケは5種類の多糖類を持っています。中でもガラクトキシロマンガンとマンノグリコマンガンはヤマブシタケ特有の多糖類です、β-グルガンの中でも、ヘテロβ-D-グルガンと呼ばれるもので、際立って高い抗ガン効果を示し、有名なアガリクスのβ-D-グルガンとも種類が異なります。
また、近年の研究で、ヘリセノンやエリナシンという成分が脳の神経細胞を活発にしてくれることがわかりました。脳内の神経伝達を行っているニューロン[※5]という神経細胞は、脳内でそれぞれ突起のようなものを伸ばしながら、情報伝達を行っています。しかし、加齢とともにニューロンが減少すると、伝達情報がスムーズに行われなくなるので、記憶力が低下し、認知症の原因にもなります。このニューロンの生死に関わっているのがNGF(神経細胞成長因子)[※6]で、ヘリセノンやエリナシンがNGFの生成を促進させることで、ニューロンの減少を防ぎ、脳細胞を活性化させるためアルツハイマー型認知症の進行を遅らせたり、防止する効果が報告されました。
その他にも、食物繊維やミネラル、ビタミンを豊富に含んでおり、健康維持をサポートします。食物繊維は発ガン性物質を体外へ排出したり、血中の悪玉LDLコレステロールを減らすため、動脈硬化などにも効果があります。

[※1:修験道とは、日本古来の山岳信仰と密教、道教などが結びついて成立した宗教のことです。]
[※2:山伏とは、山などで仏道修行に励む僧のことです。]
[※3:原木栽培とは、キノコを天然の木材を使って栽培する方法のことです。]
[※4:菌床栽培とは、樹木を粉状にし、米ぬかなどと混ぜてつくった菌床に菌を植え付けることでキノコを栽培する方法のことです。]
[※5:ニューロンとは、脳にある神経細胞のことで、 生体の細胞の中で情報処理の役割を持ちます。]
[※6:NGF(神経細胞成長因子)とは、Nerve growth factor の略で、脳の老化防止・活性化や神経細胞の分化・成長に関係するたんぱく質のことです。]

ヤマブシダケの効果

●免疫力の増強効果
β-グルカンは免疫細胞を活性化し、免疫力を増強する働きを持ちます。中でも、ガラクトキシロマンガンとマンノグリコマンガンはヤマブシタケ特有の多糖類で、際立って高い抗ガン作用を示します。また、風邪などの感染症予防にも効果があります。免疫系に働きかけることから、アレルギー症状の予防や改善も期待されています。【1】

●アルツハイマー型認知症の予防効果
ヘリセノンやエリナシンという物質の働きにより、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる効果が期待されています。NGF(神経細胞成長因子)の生成を促進し、脳内の伝達情報をスムーズにサポートする効果があります。【2】

●生活習慣病を予防する効果
ヤマブシタケには食物繊維が含まれています。食物繊維は発ガン性物質を体外へ排出したり、血中の悪玉LDLコレステロールを低下させるため、動脈硬化や高脂血症などの生活習慣病を防ぐ効果があります。【3】【4】【5】

●健康をサポートする効果
ヤマブシタケはミネラル、ビタミンを豊富に含んでいます。ビタミンやミネラルは体内でつくり出せない栄養で、食品から摂取する必要があり、欠乏すると様々な病気や体調不良の原因となります。健康な体の基本となる成分を含むヤマブシタケは、健康をトータルにサポートします。

ヤマブシダケは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○免疫力を高めたい方
○ガンを予防したい方
○風邪などの感染症を予防したい方
○アレルギー症状の方
○アルツハイマー型認知症の予防したい方
○生活習慣病を予防したい方
○虚弱体質の方

ヤマブシダケの研究情報

【1】健常者42名を対象に、ヤマブシタケに含まれるβ-グルカンを1日あたり2.5mg の量で6週間摂取させたところ、白血球B細胞が増加したことから、ヤマブシタケに免疫力向上効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22164761

【2】認知症患者29名を対象に、ヤマブシタケ乾燥粉末を1日当たり3g の量で16週間摂取させたところ、知能評価指数や認知機能に改善が見られたことから、ヤマブシタケに認知症予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18844328

【3】高コレステロール血症患者を対象に、米ぬかまたはヤマブシタケに含まれるβ-グルカンを摂取させたところ、ともにLDLコレステロールを低下させる働きが見られました。さらに、米ぬかよりもヤマブシタケに含まれるβ-グルカンのほうが、LDLコレステロール低下作用が強かったことから、ヤマブシタケに高脂血症予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21505506

【4】ヤマブシタケにも含まれるβ-グルカンを4週間摂取したところ、白人および非白人に関係なく、ともにLDLコレステロールが減少したことから、ヤマブシタケに高脂血症予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22118569

【5】ヤマブシタケにも含まれるβ-グルカンは、血中コレステロール上昇を抑制する働きを持つことから、ヤマブシタケに高脂血症予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21470820

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参考文献

・井上正子 監修 新しい栄養学と食のきほん事典 西東社

・吉川敏一 編 医療従事者のための[完全版]機能性食品ガイド 講談社

・嶋尾通 編 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社

・蒲原聖可 著 サプリメント事典 平凡社

・中嶋洋子 監修 栄養の教科書 新星出版社

・吉田企世子 監修 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店

・帯津良一ほか 監修 2004版サプリメント健康バイブル 小学館

・日経ヘルス 編 日経ヘルスサプリメント事典2008年版 日経BP社

・田中平三ほか 監訳 健康食品のすべて-ナチュラルメディシン・データベース 同文書院

・則岡孝子 監修 栄養成分の事典 新星出版社

・八巻孝夫 フーズ・メディカ食の医学館 小学館

・Gaullier JM, Sleboda J, Ofjord ES, Ulvestad E, Nurminiemi M, Moe C, Tor A, Gudmundsen O. 2011 “Supplementation with a soluble β-glucan exported from Shiitake medicinal mushroom, Lentinus edodes (Berk.) singer mycelium: a crossover, placebo-controlled study in healthy elderly.” Int J Med Mushrooms. 2011;13(4):319-26.

・Mori K, Inatomi S, Ouchi K, Azumi Y, Tuchida T. 2009 “Improving effects of the mushroom Yamabushitake (Hericium erinaceus) on mild cognitive impairment: a double-blind placebo-controlled clinical trial.” Phytother Res. 2009 Mar;23(3):367-72.

・Rondanelli M, Opizzi A, Monteferrario F, Klersy C, Cazzola R, Cestaro B. 2011 “Beta-glucan- or rice bran-enriched foods: a comparative crossover clinical trial on lipidic pattern in mildly hypercholesterolemic men.” Eur J Clin Nutr. 2011 Jul;65(7):864-71.

・Wolever TM, Gibbs AL, Brand-Miller J, Duncan AM, Hart V, Lamarche B, Tosh SM, Duss R. 2011 “Bioactive oat β-glucan reduces LDL cholesterol in Caucasians and non-Caucasians.” Nutr J. 2011 Nov 25;10:130.

・Tiwari U, Cummins E. 2011 “Meta-analysis of the effect of β-glucan intake on blood cholesterol and glucose levels.” Nutrition. 2011 Oct;27(10):1008-16.

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